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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)3441号 判決

控訴人 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 相川汎

被控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 西口徹

同 横山康博

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目表五行目の「昭和四五、六年ころ」を「昭和四五年」と、「知合い」を「知り合い」と、一〇行目の「屋号」を「商号」と、同三枚目表二行目、九行目及び末行の「話し合い」を「話合い」と、五行目の「あるため」を「あるし、年老いた母親がかわいそうなので」とそれぞれ改め、同裏五行目の「至っており、」の次に「控訴人は、被控訴人からの夫婦共同生活の要望にも応じず、被控訴人の存在意義を認めず、病弱な被控訴人の母親の扶養療養等についても何ら協力しようとしないのであって、」を加える。

2  同四枚目裏九行目の「知合い」を「知り合い」と、同六枚目表五行目の「言出した」を「言い出した」とそれぞれ改め、七行目の「以上のとおり、」の次に「控訴人と被控訴人との婚姻生活は、実体上も夫婦としての実質に欠けるものではなく、これをもって婚姻生活が破綻しているとの評価を容れる余地はなく、」を加える。

三  《証拠関係省略》

理由

一  理由については、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の説示を引用する。

1  《証拠付加・訂正省略》

2  原判決七枚目表二行目の「原告」の次に「(昭和一二年三月二八日生)」を、「被告」の次に「(昭和一一年一一月一二日生)」をそれぞれ加え、同行の「知合って」を「知り合って」と、五行目の「一人息子であり」を「一人息子で、生後間もなくから女手一つで養育され」と、七行目の「あったところ」を「あったことから」と、七行目から八行目にかけての「内緒に」を「秘匿」と、九行目の「原告の」から一〇行目の「会ったが」までを「被控訴人の母が被控訴人と右女性との仲人を依頼するため被控訴人を伴って被控訴人の上司宅を訪れたところ、控訴人と被控訴人の右のような関係を知っている上司は、控訴人を自宅に呼び寄せ、同所で控訴人を被控訴人の母に紹介した。」と、末行の「待った」を「示し、その後の上司の尽力にもかかわらず二人の結婚を認めようとはしなかった」と、同裏三行目の「などして」を「などし、控訴人も被控訴人の『どうせ結婚はしないが一度はおふくろの言うことを聞いて上司宅へ付いて行っただけ、そうしないと収まりがつかなかった。』旨の弁解に納得し、時間をかけて被控訴人の母の怒りの解けるのを待つこととし」と、同行から四行目にかけての「いうべきものであった」を「いうべき状態のまま推移した」とそれぞれ改める。

3  同八枚目表二行目の「なお、」の次に「被控訴人は当時実母が子宮癌で入院療養中であったこともあって、」を加え、「婚姻届け」を「婚姻届出」と、四行目の「ころ」を「になる少し前」と、七行目の「繰返し」を「繰り返し」とそれぞれ改め、九行目から一〇行目にかけての「仕事も辞めることができず、」を削り、同裏一行目の「原告に」の次に「あらかじめ」を加え、五行目の「受止め」を「受け止め」と、六行目の「打込み」を「打ち込み」と、「一戸建の家」を「一戸建ての居宅」と、七行目の「二階」を「と三階」と、八行目の「二階に」を「三階の」と、同行の「同居」を「隣り合った部屋に居住」と、九行目の「設立し」を「設立して羽振りよく振る舞ったが」とそれぞれ改め、同行から一〇行目にかけての「一一月からは」の次に「一時経営が悪化したため」を加え、同行の「現在の」を「近くにある」と改め、「移った」の次に「。」を加え、末行を削り、同九枚目表二行目の「していたが、」の次に「控訴人は被控訴人に対する前記のような不満もあって、事業内容や子の養育について妹夫婦には何かと協力を求めながら被控訴人に対しては相談することもなく、また控訴人に対して少しずつ心を開いてきた被控訴人の母に対する思いやりにも欠け、そのため」を加える。

4  同九枚目表六行目の「立直す」を「立て直す」と改め、七行目の「原告は」を削り、「共同生活を」を「同居」と改め、一〇行目の「待たれたが、」の次に「被控訴人が控訴人の事情を考慮せず性急に同居を要求したことから、」を加え、八行目及び一〇行目の「話し合い」を「話合い」と、同裏一行目及び三行目の「話い合い」を「話合い」とそれぞれ改め、四行目の次に行をかえて「10 昭和五八年からの貸金業に対する規制の強化により、小企業である控訴人の営業は不振となり、昭和六一年九月には控訴人は実質的に経営していた株式会社乙海を他に譲渡して営業をやめ、経常的な収入の道を失ったが、春子は自分で養育している。春子については控訴人被控訴人双方共愛情を抱き、春子も双方を慕っており、現在のところ健全な成長を見ている。」を加え、五行目の「10」を「11」と改め、七行目と八行目の全部を削る。五行目の「原告は」の前に「右話合いののち控訴人と被控訴人との接触は本訴あるいは調停の場以外にはなく、」を加え、六行目の「主張している」を「主張しているが、相互の不信感は強い」と改める。《証拠訂正・付加省略》

5  同一〇枚目表二行目の冒頭から末行までを次のとおり改める。

「二 右認定事実によれば、控訴人と被控訴人との婚姻生活は、その当初から不自然なものであり、現在においては、相互の不信感、とくに被控訴人の控訴人に対する極度の悪感情から破綻状態にあることは一応否定できない。しかしその破綻をもたらした原因について考えてみると、主として被控訴人の浅薄な思慮と優柔不断で身勝手な生活態度に起因するものといわざるをえない。すなわち、被控訴人は、生後間もなくから母の手一つで育てられたものであり、母の被控訴人の結婚に対する期待と願望の大きさは容易に推測することができたと考えられるのに、母に秘匿したまま性急に母が好意を抱いていない控訴人との交際を深め、しかも婚姻の届出をしたのは十分に分別を備える年齢に達してからであり、控訴人がたまたま経済的能力に富んでいたことから、その事業が成功し、控訴人及び子春子の扶養の必要がなかったことを奇貨とし、定期の扶養料、生活費を全く負担せず、かえって経済的な劣等感を転じて控訴人に対する悪感情を増幅させていったものである。他方、控訴人においても、自己の経済的成功に酔い、経済的余裕にまかせてぜい沢な生活をし、被控訴人に対する応接態度にもおごりが見受けられないではないが、ほとんど被控訴人の力を借りず、女手一つで生活を支え、春子の養育に当たってきたことに鑑みると強くこれを咎め立てることは酷であろう。してみれば、今日の両者の婚姻の破綻の原因の多くは被控訴人の側にあり、破綻を理由とする被控訴人の本件離婚請求を認めることはできない。しかも控訴人は現在事業不振となって廃業し、経常的収入の道を失っており、経済的生活に不安があること、春子は控訴人被控訴人双方に対して等しく慕っているうえ、家族関係が強く影響する年代に差し掛っていることに鑑みると、両者の婚姻関係を解消することは妥当なものとはいいえない。

二  以上の次第により、被控訴人の本件離婚請求は離婚原因を欠くものであって、理由がないからこれを棄却すべきであり、これと異なる原判決は民事訴訟法三八六条によりこれを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 河合治夫)

〈以下省略〉

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